イノシシを検知するAI !? TOPPANの獣害対策への取り組み
こんにちは!「ICT KŌBŌ® ARIAKE」です。
すっかり寒くなって、こたつが恋しい季節となりましたね。筆者は、こたつに入りながら焼き芋やみかんを食べるのがこの季節の楽しみとなっています。
しかし、芋やみかんが好きなのは私たち人間だけではなく、イノシシにとっての好物でもあるようで、イノシシが食べ物を求めて、住宅地に侵入し畑を荒らすといった獣害が発生しています。
そこで私たちは、獣害の低減に向けて、福岡県大牟田市内で獣害対策IoTシステムの実証実験を実施しています。
本記事では、その背景や技術的な要素を詳しくご紹介します!
今までの取り組みと見つかった課題
野生のイノシシを捕獲するため、出現しやすい場所には箱罠が設置されています。
猟友会の方は、毎日100か所以上の箱罠を見回りして捕獲状況の確認をしており、非常に負担が大きい作業となっています。
この課題を解決するために、私たちは昨年度「リモワーナ®︎」というシステムを設置し、効果の検証を実施しました。
リモワーナ®︎とは、箱罠の出入り口に開閉センサーを設置し、イノシシなどの害獣の捕獲状況を遠隔で監視するシステムです。これにより、見回り作業の負荷軽減が期待されます。
リモワーナ®︎についての詳細は、こちらをご覧ください。
このシステムの実証実験を進める中で、新たに3つの課題が見えてきました。
①蹴り糸をなくしたい
箱罠の奥には蹴り糸というワイヤーが張られており、それにイノシシが当たると扉が落ちるという機構になっています。既存のリモワーナ®︎は、この機構に追加して機器を設置していましたが、イノシシがこのワイヤーを警戒して箱罠に入らないという欠点がありました。
さらに、箱罠が捕獲の対象であるイノシシ以外を捕まえることがあります。既存のリモワーナ®︎では、何が捕獲されたのかは現地に行って確認しなければ分かりませんでした。捕獲通知があったら確認のために出動し、イノシシ以外だったら逃がす作業をする必要がありますが、手間がかかってしまいます。
そのため、蹴り糸以外の方法で箱罠の外側からイノシシを検知して、イノシシ以外が入ってきたときには扉を落とさないようなシステムが理想です。
②エサの見回り負荷が高い
箱罠の中には、イノシシをおびき寄せるためのエサが入っています。主に米ぬかが使われているのですが、イノシシ以外の小動物に食べられたり、風雨で飛ばされたりしてなくなってしまうことがあります。
猟友会による点検の際に、エサがなくなっていないかの確認と補充をしています。しかし、エサの確認は本質的な作業ではないため、できれば最小限にしたいという願いがあります。
解決のための新たなシステム
これらの課題を解決するために、新たな2つのシステムを開発し、実証実験を始めました。
①AI検知罠システム
箱罠に入った動物をカメラが検知し、画像解析AIによりイノシシかどうか判定し、イノシシの侵入時のみ扉を閉めるシステムです。
他の動物が入ったときは閉まらないため、通知の精度が上がり、作業者の負荷を軽減することができます。
また、AIの判定は端末で処理し、判定の結果だけを送信するため、画像をクラウドに送信する必要がありません。通信量が少なく済むため、通信料金を抑えて安価に運用することが可能です。
通信には、TOPPANが提供するLPWA規格の1つである「ZETA」を使用しています。ZETAを活用することで、通信環境の悪い山奥や僻地でも通信インフラの構築ができ、少ない電力で広範囲における無線通信を実現します。
ZETAの詳細については、こちらをご覧ください。
②エサ有無検知システム
箱罠に仕掛けたエサの有無を検知し、結果を遠隔地から確認できるシステムです。エサを補充しなければいけない箇所が事前に分かるため、見回り負荷を軽減することができます。
エサの有無の判定には照度センサーを活用します。箱罠の底面に照度センサーを取り付け、光の強さを測定することで判定します。
この2つのシステムがうまく動作するか検証するため、現在実証実験を実施しています。
プレスリリースはこちらをご覧ください。
開発者へインタビュー
獣害対策IoTシステムの開発を担当している唐﨑さんに、話を聞いてみました。
──Q1. 開発や実証実験を進める中で苦労していることはありますか?
自然を相手にすることの大変さを感じています。
ハードウェアは風雨に耐える必要があるため、防水性や防塵性など、設計で配慮しなければならない点が多いです。
また、ボックスが大きく揺れて配線が外れたり、アリの巣を作られたりと、想定していなかったことが起きます。自然の中で検証をする以上仕方ないことですが、対応には苦労しています。
そのような環境の中でシステムが正しく動いているかを確かめるため、毎日点検に行っています。設置箇所はオフィスから少し離れたところにあるため、点検には約2時間かかります。現地で作業していると泥で汚れることもありますし、虫に刺されて腫れたりすることも多いです。
しかし、そのような行きづらい場所でシステムが動作すれば、有用性を身をもって証明できるはずだと信じています。
さらに、見回りのときにイノシシに遭遇することがあります。
小さい個体だと向こうから逃げますが、大きい個体は逃げずにじっと見つめてきます。そうなると、こちらが後ずさりして逃げるしかありません。このような瞬間は恐怖を感じます……
特に、民家の近くの場所で出くわしたときは、市民に危険が迫っていることを身をもって実感しました。
──Q2. 技術的な面でも、工夫していることを教えてください。
このシステムはエッジAIといって、クラウドではなく、センサーをつなげたマイコンでAIの処理をさせています。
通信環境の良くないところでもAIを使えるというメリットはありますが、デメリットとして性能が低かったり、電力はバッテリーから供給するため省電力でなければならないなど、制約が大きいです。
シビアな制限の中で要件を満たすような設計にするのは難しいですが、試行錯誤と実地検証を繰り返しながら開発しています。
──Q3. 心がけていることは何ですか?
市役所の方や猟友会の方と、密に連携を取ることを心がけています。
実際に見回り作業をされている方からの意見を聞くことが、より良いサービスの開発につながります。
猟友会の方は、イノシシの生態や捕まえ方に関するノウハウが豊富なので、アドバイスをいただき実証実験に取り入れています。
このように、現場の方々と近い位置に立つことで、課題が見え、解決策を生み出す道筋が見えてきます。
最後に
このように、私たちICT KŌBŌ®︎の社員は地域の課題に向き合い、ソリューションを生み出すため日々励んでいます。
今後は大牟田市以外にも、獣害に困っている自治体に本システムを広げていきたいと考えています。しかし、それぞれの状況によって対応したい課題や必要な機能は少しずつ異なってくるので、様々なニーズに対応できる汎用的なシステムとなることを目指して、実証実験や開発を続けていきます。
他の拠点でも、それぞれの課題を解決すべくユニークな取り組みを進めています。こちらも併せてご覧ください!
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
今後も良いニュースを届けられるよう、メンバー一同邁進してまいります!
次回の記事もお楽しみに!
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* 「エサ有無検知システム」、「AI検知罠システム」は、TOPPAN ホールディングス株式会社が関連特許出願済みです。