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遊びながら量子コンピュータを理解する!?「量子ゲーム」


量子ゲームとは

 量子コンピュータは、量子力学の原理を利用して、通常のコンピュータでは解けない複雑な問題に取り組むことができる革新的な技術です。最近では、テレビや新聞の科学関連のニュース、小説や映画などのSF作品を通じて、量子コンピュータというワードをよく目にするようになりました。これらをきっかけに量子コンピュータに興味を持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、いざ量子コンピュータの世界を調べてみようとするも、専門用語や量子力学の知識を要する高度な概念に圧倒され、途中で挫折してしまった方もいらっしゃるかもしれません。このような専門的な分野に対しては、ゲームを通じて理解を深めるアプローチがあります。例えば、語学やプログラミング、金融などの分野で、ゲーム感覚で知識を習得できるアプリが数多く存在しています。そこで本記事では、「量子コンピュータってなんだか難しそう...」と思っている方に向けて、ゲームを活用して楽しみながら量子コンピュータについて学ぶ方法、量子ゲームをご紹介します。

要素技術

 量子ゲームは、ゲーム内で量子力学の現象をシミュレートすることで、プレイヤーが量子コンピュータの基本的な概念を楽しく学べるように作られています。現時点では、私達が普段使っているコンピュータ(古典コンピュータ)のみで動作する量子ゲームがほとんどですが、実際に量子コンピュータとクラウド上で接続して遊べるものもあります。ただし、量子コンピュータの性能はまだまだ発展途上であり、量子コンピュータ上で実行される量子ゲームの数は限られています。この記事では、量子コンピュータについて学べるゲーム全般を指して量子ゲームと呼んでいます。
 量子ゲームの開発にはゲームの題材となる量子コンピュータの基礎知識とゲーム開発の技術が必要となります。

量子コンピュータの基礎知識

 量子コンピュータの特徴的な性質の中に、「量子重ね合わせ」と「量子もつれ」という現象があります。量子重ね合わせとは、量子ビットが0と1の両方の状態を同時に取ることができる性質です。この性質を利用することで、計算処理の速度が飛躍的に向上する可能性があります。一方、「量子もつれ」とは複数の量子ビットが密接に関与し、一つの量子ビットの状態変化が他のビットに瞬時に影響を及ぼす現象です。この特性は、情報科学や通信技術の分野で革新をもたらすと期待されていることから、量子もつれを証明し、これらの分野の進展に寄与したフランス・サクレー大学のアラン・アスペ博士、アメリカ・クラウザー研究所のジョン・クラウザー博士、オーストリア・ウィーン大学のアントン・ツァイリンガー博士の三氏は2022年にノーベル物理学賞を受賞しました。
 さて、説明を文字だけで見ると少し難しく感じてしまうかもしれませんが、この記事の後半では「量子重ね合わせ」を例に、量子ゲーム作りに挑戦したので、理解に役立つか実際にお確かめください。また、量子コンピュータについてもっと詳しく知りたい方は、当社のnoteで解説しておりますので、ぜひご覧ください。

ゲーム開発の技術

 ゲーム開発では、まずゲームデザインによってアイデアをルールやストーリーに落とし込み、ゲームの基本的な世界観やプレイの流れを決めます。次にプログラミングを行い、C++、C#、JavaScript、Pythonなどの言語をゲームの規模や仕様に合わせて使用し、ゲームデザインで決めたルールが動作するようなコードに変換します。また、ゲームの見た目や雰囲気を魅力的にするために、グラフィックデザインやサウンドデザインも重要です。これらを組み合わせて、テストやデバッグを繰り返し、最終的なゲームとしてリリースすることができます。
 以前までは、ゲーム開発には専門知識や膨大な時間と労力が必要でしたが、ChatGPTのようなコーディングや画像作成ができる生成AIを使うことで、初心者でも簡単にゲーム開発ができるようになってきました。

量子ゲームへの期待と課題

 量子コンピュータは、各国が国家戦略として最優先に取り組んでいる重要技術です。国際競争が激化する中、技術の研究・開発を推進するためには人財育成が急務ですが、量子力学の高度な概念を理解するハードルが高いため、担い手がまだ少なく、深刻な人財不足が課題となっています。その中で、量子ゲームは、子どもから大人まで、幅広い年齢層が楽しみながら量子コンピュータを学ぶことができる有用なツールです。ゲームを通じたインタラクティブな学習により、理解を深めるだけでなく学習意欲を高め、量子人財育成の一助となることが期待されます。
 一方、現時点では公開されている量子ゲームの数が限られており、気軽に体験できる機会が少ないことも課題の一つです。さらに、ゲーム開発者が量子コンピュータの原理を正確に理解してゲームに落とし込むことも技術的な課題となっています。これらの課題に対して、量子の分野で活躍する企業・アカデミアが量子ゲームの開発を盛り上げていくことが重要です。

量子ゲームの未来像

 量子ゲームが未来の私たちの生活にもたらす可能性について想像してみましょう。
 子どもの頃から量子ゲームで遊ぶことで、誰もが量子コンピュータの複雑な原理を理解できる時代がやってきます。量子ゲームで育まれた次世代の量子人財が、既存の技術を超える革新的な量子コンピュータの研究を推進し、産業や日常生活をより便利で豊かに変えます。
 さらには、ゲームの在り方にも革命を起こすかもしれません。量子コンピュータの性能向上により計算の処理能力が上がり、現実の物理現象を完璧に再現できる仮想空間が実現すれば、私たちは現実と見紛うほどのリアルなゲーム体験に没入できるようになります。
 このように、量子ゲームは単なる娯楽を超え、教育や技術革新の分野において未来の可能性を広げる重要なツールとなり得ます。

活用事例

 世界各地でQJAMやQuantum Game Jamといった量子ゲーム開発に特化したワークショップやコンペティションが開催されています。これらのイベントでは、量子ゲームのアイデアを持つ有志が集まり、作品をゼロから作り上げます。量子コンピュータの研究者やゲーム開発者、その他の分野の専門家・学生を含めたコラボレーションが促進され、量子ゲームづくりを盛り上げています。
 代表的な量子ゲームの一つとしては、TIS株式会社と大阪大学量子情報・量子生命研究センターが共同開発したQuantAttackが挙げられます。QuantAttackは、量子コンピュータの基本原理を学ぶことができるアクションパズルゲームです。量子コンピュータには、量子ゲートという、量子ビットの状態を操作する基本的な要素があり、量子ビットを重ね合わせ状態にするHゲートや、量子ビットの状態を反転させるXゲートなどがあります。プレイヤーは、量子ゲートを模したブロックの順番を入れ替えてパターンを作り、消していくことで高得点を目指します。ブロックが画面いっぱいに積み上がるとゲームオーバーになるため、プレイヤーは量子ゲートの種類やその性質を理解する必要があります。QuantAttackを通じて、自然に基本的な知識が身につく仕組みとなっています。

量子ゲーム作ってみました

 最近の生成AIの進化により、プログラミングの知識がなくても誰でもゲーム開発に挑戦できるようになりました。そこでゲーム開発の経験がない筆者も、ChatGPTの力を借りて量子ゲーム作りに挑戦してみました。以下では、その開発過程をご紹介します。

 まず、ゲームで取り扱いたいテーマとして「量子重ね合わせ」を選定しました。要素技術の章でご説明した通り、量子ビットが二つの状態を同時に取り得るという不思議な現象で、これはシュレディンガーの猫というお話で『箱の中の猫は、箱を空けて観測するまでの間は生きている/死んでいる両方の状態が成り立つ』のように例えられています。この量子力学の魅力的な性質をシューティングゲームと組み合わせることに決めました。

 ゲームコンセプトは、プレイヤーが弾丸を撃って敵を倒すシンプルなシューティングゲームです。そこに一味違う要素として、量子重ね合わせを取り入れました。弾丸を撃った瞬間は、その弾丸は敵にノーダメージの”0”状態と敵を倒す”1”状態のどちらも同時に成立しており、敵に当たった瞬間にどちらかの状態に確定するというアイデアです。このアイデアをChatGPTに伝えて、ゲームのコードを生成し、プロトタイプを作成しました。

ChatGPTが生成したコード
初期プロトタイプ

シンプルながらも動くゲームが作れました!ただ、このままだとビジュアルがあまりにも質素すぎます。そこで、ChatGPTの画像生成機能を利用し、作りたい画像のイメージを伝え、プレイヤー・敵キャラクター・背景に画像を追加しました。

改良プロトタイプ

画像を追加することで、よりゲームらしくなりました!その後も追加のアイデアが浮かび、『量子ゲート操作を取り入れ、プレイヤーが0,1の確率を調節できるようにする』、『その説明を担うキャラクターを追加する』などの改良を重ねた結果、最終的にできたゲームがこちらになります。

完成版

量子コンピュータの様々な要素を遊びながら学べるゲームに仕上がったのではないでしょうか。このように生成AIの進化と相まって、ゲーム開発がしやすくなったため、これからもっと多くの量子ゲームと出会える機会が増えることに期待しています。

TOPPANデジタルの取り組み

 TOPPANデジタルは企業や研究機関と連携して量子コンピュータに関連した研究開発を推進しています。耐量子計算機暗号技術をはじめとするセキュリティ分野の研究開発や、量子人工知能、新材料の開発・評価手法に関する共同研究など、幅広い分野での取り組みを行っています。これまでのデジタルテクノロジー・レポートで、それぞれの技術に関する記事を掲載しておりますので、ぜひご覧ください。


TOPPANデジタル有識者コメント

鳥羽 牧
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
量子技術戦略部 部長

量子コンピュータ等の量子技術の進展は、科学技術に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。各国が国家的課題として量子技術の開発に取り組んでいますが、量子人財が不足しており、その育成が喫緊の課題となっています。量子ゲームによって、多くの方が手軽に量子技術に親しみ、また量子技術の研究・開発に携わるきっかけとなることを期待しています。
また、我々は量子技術とAI技術が連携することで、より多くの課題が解決できると考えています。今回の量子ゲームの開発事例は、初歩的ではありますが、量子技術とAI技術がもたらす未来を示唆するものではないでしょうか。


■編集者

中川 理夢
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
量子技術戦略部


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