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グラフニューラルネットワークとは


 グラフニューラルネットワーク(GNN:Graph Neural Network)は、ノード(点)とエッジ(線)で構成されるグラフを入力データとして、AIの学習・予測をする深層学習モデルです。実世界では、ソーシャルネットワーク、分子構造、交通ネットワークなど、多くのデータがグラフとして表現可能です。GNNは、これらグラフのノード間の関係性やパターンを学習し、ノードやグラフ全体の特徴表現から予測・分類等のタスクを実行します。具体的には、ソーシャルネットワークのユーザーグループ識別、分子構造の性質予測、交通ネットワークの最適なルート探索などに活用されています。

要素技術

 GNNは他の機械学習と異なり、数値ベクトルや行列等の比較的単純な構造を持つデータだけでなく、それらがどのように接続されているかという関係性も一緒に計算する機構を持ちます。そのため、データ接続や関係性が重要な役割を果たす場合には、GNNの手法が有効であり、関係性を表現・計算する構成要素としてタスクの種類やグラフ表現、学習アルゴリズムの3つが存在します。

タスクの種類

 GNNのタスクは、扱う問題の種類に応じて、ノード予測、エッジ予測、グラフ予測に大別されます。ノード予測は、個々のノードの分類や回帰などのタスクを扱います。エッジ予測は、ノード間が繋がるかどうかやエッジの数値、ラベルを予測します。グラフ予測は、グラフ全体やグラフの集合に対する特性やラベルを予測します。 

GNNで解けるタスク・活用例

グラフ表現

 GNNにおけるグラフの表現方法は、有向/無向、同種/異種、静的/動的などの要素に基づいて分類され、これらの表現により、さまざまな種類のデータや関係性を捉えることができます。有向/無向グラフはエッジの方向性の有無、同種/異種グラフはノードとエッジの種類が単一または複数、静的/動的グラフは時間経過に伴うグラフの変化を捉えることが可能です。

GNNにおけるグラフ表現の種類

学習アルゴリズム

 GNNの学習アルゴリズムには、グラフ畳み込みネットワーク(GCN)、グラフ注意ネットワーク(GAT)、グラフオートエンコーダ(GAE)など、多種多様なものが存在します。これらのアルゴリズムは、グラフ構造内のノード間の関係性を捉え、ノードやグラフ全体の特徴表現を学習するために設計されています。適切なアルゴリズムを選択することで、特定のタスクやデータに最適なモデルを構築できます。

期待と課題

GNNの期待

 GNNはグラフ構造データを扱えることにより、複雑な関係性をモデリングでき、マーケティングでのレコメンドシステム、医療での薬剤発見、流通・モビリティではトラフィック予測など、多岐にわたる分野での応用が期待されています。また、近年では世の中の事実や概念を表現できるナレッジグラフと組わせた技術が研究されており、より専門的な領域でのAI活用促進が期待できます。

GNNの課題

 GNNは、複雑な関係性を持つグラフを入力とするため、予測結果に対する根拠がわからないという問題を抱えており、解釈性の向上が求められています。また、ソーシャルネットワーク等の大規模なグラフに対する計算コストが高く、リアルタイム処理が困難なため、効率的なアルゴリズムやハードウェアの発展も期待されています。

未来像

社会ネットワーク

 社会ネットワーク上での情報の拡散には、フェイクニュースやデマが含まれる場合が多く、これが社会的な混乱や個人の意思決定に悪影響を与えることが問題となっています。また、個人のプライバシーの侵害やデータの不正利用の懸念もあります。
 これらの問題に対して、GNNを活用することで社会ネットワーク内での情報の流れを理解し、個々のユーザーの影響力や危険な情報の流れを特定できるようになってきます。これにより、フェイクニュースの拡散や個人情報の流出を抑制でき、真実の情報のみが広がるような社会ネットワーク構築が期待できます。

バイオマティクス分野

 新薬開発のプロセスは高コストで時間がかかり、多くの疾患に対する効果的な治療薬がまだ存在していません。また、副作用や患者個々の遺伝的特徴による治療効果の違いの問題もあります。AI技術は大量の医療・生物データから有用な情報を抽出し、副作用の少ない効果的な治療法を探索する上で重要な役割を担っています。
 その中でもGNNは、他のAI技術にはないデータの複雑な関係性をモデル化する能力に優れているため、特に分子の構造や遺伝子間の相互作用などを深く理解し、より迅速に効果的な薬剤候補を特定できるようになります。さらに、個々の患者の過去の疾患や遺伝子情報に基づいてパーソナライズされた医療が提供できるようになることで、副作用のリスクを最小限に抑え、より安全な治療が実現可能になります。

都市計画・モビリティ

 現代の都市における人口増加と急速な都市化は、世界中で交通渋滞や公共交通の過密の問題を引き起こしており、環境汚染や市民の生活品質の低下を引き起こしています。これらの問題に対して、従来のアプローチでは主に統計的手法やシミュレーションモデルが使用されており、過去データに基づくパターン認識や流動予測を行っていますが、これらの手法はリアルタイムのデータ処理や未来予測の精度に限界があります。
 GNNを活用することで、交通ネットワーク全体の複雑な関係性を深く理解し、これまでの手法では捉えきれなかった動的な交通流の変動をリアルタイムで精密に予測できるようになります。これにより、交通渋滞の緩和と公共交通システムの最適化が進み、より快適で持続可能な都市生活が実現します。

TOPPANの取り組み

 TOPPANは、マーケティング領域でのSNSを活用したビジネス創出支援や製造領域でのマテリアルズインフォマティクス(MI:Materials Informatics)による材料開発、都市開発・モビリティでの観光/地域活性など幅広い事業領域に取り組んでいます。これらの領域に対して、GNNを適用することで、SNS活用のさらなるパーソナライズ化や新規材料開発の高速化、都市開発での交通インフラ最適化など、将来的なGNNの実用化を目指し、研究・開発に取り組んでいきます。  

TOPPAN有識者コメント

土本 剛義
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
AI技術戦略部 課長

 GNN(グラフニューラルネットワーク)技術は、グラフ構造を扱う特性から適用範囲が広く、多岐にわたる業界で注目を集めています。我々は複雑な関係データを蓄積し、当社が強みとするマーケティング、BPO、製造をはじめとするあらゆる分野での活用を目指して研究・開発に取り組んでいます。GNN技術の研究・開発を通じ、AIの応用範囲を拡大し、より快適で持続可能な社会の実現に貢献して参ります。


■編集者

荒川 大祐
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
AI技術戦略部