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ブロックチェーンが実現する「価値のインターネット」と「Web3」


概要

ブロックチェーンとは?

 ブロックチェーンとは、デジタル情報を安全かつ透明に取引・記録するための分散型のデータベースの一種です。複数のコンピューターがネットワークを形成し、同じ情報を持ちながら、その情報の変更や追加を合意形成アルゴリズムに基づいて行います。合意された情報は、ブロックと呼ばれる単位でまとめて記録されており、各ブロックがそれぞれ前のブロックから導出されたデータを含み、鎖(チェーン)のような構造をしていることからブロックチェーンと呼ばれています。
 未だ正体不明である「サトシナカモト」が提案したビットコインを構成する技術として発明され、暗号技術やP2P(Peer to Peer)ネットワークなどの、既存技術の組合せによって成り立っている革新的な技術であると考えられています。現在ではビットコインの他、イーサリアムなど多くのブロックチェーンが開発されています。

(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」

ブロックチェーンの特徴

 ブロックチェーンの主な特徴を3つの観点から説明します。
分散性(Decentralization)

 ブロックチェーンは中央集権的な構造を持たず、複数のコンピューター(ノード)がネットワークを形成します。各ノードは同じデータベースを持ち、特定の合意形成の仕組みに基づいて新しい取引や情報を追加しています。この分散性により、システム全体の信頼性が向上し、障害や攻撃に対する耐性が高まります。
透明性(Transparency)
 ブロックチェーン上の取引や情報は、ネットワーク内のすべてのノードに共有されていて、誰でも閲覧、検証が可能です。透明性はブロックチェーンの信頼を築く上で重要な特徴です。
不変性(Immutability)
 一度ブロックという単位で追加され記録されたデータは、その後の変更が非常に困難です。新しいブロックは前のブロックから導出されたデータを含んでいて、過去のブロックと鎖のようにつながっています。これにより不正な改ざんが防がれ、以前のブロックに記録された情報が不変性を持ちます。この特徴は、特に過去の取引記録の追跡において有用であり、データの完全性を確保します。

※後述の通り、上記3つの特徴を持たないブロックチェーンも存在します。

 これらの特徴から、ブロックチェーン上にあるデータを、価値やアイデンティティのあるものとして扱うことができる可能性があり、価値のインターネットを実現する技術として注目されています。

価値のインターネット(Internet of Value)

あらゆるモノがインターネットにつながることをモノのインターネット(IoT)と呼ぶようになって久しいですが、インターネットの情報と同じように、価値やアイデンティティを持ったデータを世界中で自由に交換できることを「価値のインターネット」と呼びます。
インターネットの普及によって、世界中で「情報」を瞬時に交換できるようになりましたが、「価値」についてはそうなってはいないのが現状です。「情報」は電子的にコピーすることで簡単に複製できますが、「価値」を簡単に複製するわけにはいきません。
 しかしながら、ブロックチェーン技術によって、価値やアイデンティティを持ったデータの交換が可能になると期待されています。
 例えば、AさんからBさんに送金をする場合、安心して送金処理を行うために、金融機関などの信頼できる仲介者が必要になります。第三者が信用を担保し、価値の移転を承認することで、送金が完了します。
 ブロックチェーンにおいては、AさんのアドレスからBさんのアドレスに送金を行うと、第三者への信頼無しに送金が完了します。これはブロックチェーンという、「非中央集権的に機能し、透明性や不変性が高い仕組み」に対する信頼によって成りたっていると言えます。

送金における既存システムとブロックチェーンの比較イメージ

 ブロックチェーンは、インターネットで価値やアイデンティティを取り扱う新たなレイヤーであると捉えることもできます。

Web3とブロックチェーン

 現在においても「Web3」の決定した定義はないと考えていますが、下記の図のようにWeb1からの変遷としてWeb3を捉え、特定の事業者(プラットフォーマー)の管理下にデータを置くのではなく、ブロックチェーンの様な分散型のデータベース上でユーザー自身がデータを管理する概念である、という解説が多くなされています。
 2014年にweb3を最初に提唱したギャビン・ウッド氏がブロックチェーンの開発者であることからも、ブロックチェーンからWeb3という言葉が生まれ、Web3という概念を実現する技術として、ブロックチェーンがあると考えることができます。

Web3までの変遷

代表的なブロックチェーンとその期待

ビットコイン ( Bitcoin )

 ビットコインは、サトシナカモトが「Digital Cash System」として提案した世界初のブロックチェーンであり、そこで発行、利用される、暗号資産BTC(ビットコイン)の名前でもあります。
 計算力を競い合わせてノードに報酬を与える、PoW(Proof of Work)と呼ばれる合意形成の仕組み等によって、中央集権的な管理者無しにシステムが稼働することを可能としています。
 BTCは供給量が決まっていて希少価値があることから、価値の貯蔵への期待もあり、デジタルゴールドとも呼ばれています。また、世界中の誰でも利用でき、古来の金貨決済においてデメリットであった、簡単に分割できないことやセキュリティ面も含めた持ち運びの不便さも無いことから、貨幣や決済など、金融システム全体に大きな革命をもたらす可能性があると考えられています。

貨幣の3つの機能

イーサリアム ( Ethereum )

 イーサリアムは、ヴィタリック・ブテリン氏によって提案されたスマートコントラクトを実装可能なブロックチェーンであり、暗号資産ETH(イーサ)が内部通貨として利用されています。
 スマートコントラクトとは、プログラムで設定した要件を自動執行する機能です。取引相手への信頼や信頼できる第三者の仲介無しに、ブロックチェーン上で決済まで含めた契約を執行することができます。
 また、昨今話題になったNFT(Non Fungible Token)などのトークンを、新たにイーサリアム(ブロックチェーン)上に発行することができ、将来的には、アートや証券、資格だけでなく、様々なモノや権利がトークン化されて扱われる可能性があります。
 有形、無形のモノをトークン化し、それらのトークンをスマートコントラクトによって取引していく基盤として、イーサリアムが注目されています。

スマートコントラクトのイメージ

ブロックチェーンの分類

 ブロックチェーンの分類として、誰でも自由にネットワークに参加でき、特定の人や組織に管理、運営されていないものを「パブリックチェーン」と呼びます。代表的なものとしてビットコインやイーサリアムがあります。
 逆に、ネットワークへの参加に許可が必要で、特定の人や組織に管理、運営されているブロックチェーンを「プライベートチェーン」や「コンソーシアムチェーン」と呼び、証券取引やトレーサビリティなどの用途に向けた取り組みが行われています。

パブリックチェーンとプライベートチェーンの比較

ブロックチェーンの課題

Web3という概念が注目を集めている一方、それを実現するブロックチェーンには様々な課題があります。

技術的課題

 ブロックチェーンにおいて、以下の3点が同時に実現しないという技術的な課題を「ブロックチェーンのトリレンマ」と呼びます。

  1. 分散性:非中央集権化されている

  2. セキュリティ:悪意のある参加者による不正行為を防ぐセキュリティメカニズムが機能している

  3. スケーラビリティ:取引の増加に伴い処理能力を拡張できる

 各々のブロックチェーンによって特徴は異なりますが、ビットコインやイーサリアムは分散性とセキュリティに重きを置いているので、スケーラビリティが弱いブロックチェーンと言えます。取引が多くなると処理に時間がかかってしまいます。
 そこで、分散性という重要な特徴を残しながら、スケーラビリティの課題を解決するために、ビットコインやイーサリアムの外で取引を処理する「レイヤー2」と呼ばれる技術の開発が進んでいます。

 一方で、スケーラビリティの課題を解決するためにあえて中央集権化している「プライベートチェーン」を用いる場合もあります。レイヤー2が無くても高速な取引処理が可能ですが、分散性が失われたブロックチェーンの意義や、既存技術と比較した優位性について懐疑的な立場を取る人も少なくありません。

ブロックチェーンのトリレンマ

法規制面の課題

 ブロックチェーン技術が実現する価値やビジネスに対する法規制の整理が十分に追いついていないことが大きな課題となっています。
 例えば、日本の税制の観点では、企業や個人がブロックチェーン上に発行されるトークンを保持、利活用することが難しい環境になっており、普及が進まない要因の一つであると考えられています。
 また、独自で発行したトークンを使った詐欺に近い行為や、海外取引所の経営破綻など、ブロックチェーン技術には直接関係の無い出来事が、ブロックチェーン全体への悪印象につながっています。
 日本が世界に先駆けて取引所の規制などを進めていましたが、「アメリカ史上最大規模の金融詐欺」と言われるFTX事件などもあり、今ではアメリカやその他の国々も規制を進めています。技術や市場の発展を阻害しない、適切な規制を行うことが期待されている状況です。

未来像

下記はブロックチェーン技術が普及した未来像の一部です。

■フィナンシャルインクルージョン
 仲介者への信頼無しに、ブロックチェーン上でお金を預金して利子を得たり、あるいはトークン化された資産を担保にお金を借りたり、保険などのサービスに加入することができるようになることで、世界中に存在する「銀行口座を持つことができない」多くの人々が金融サービスにアクセスできるようになり、貧困からの脱却を後押しする。

■様々な権利のトークン化とビジネスモデルの多様化
 
イベントのチケットや商品券だけでなく、ホテルの宿泊や航空券など、様々な権利がトークン化され、国境を超えて自由な二次流通が行われることで販売モデルや収益モデルが多様化する。例えば、予約したホテルに当日行けなくなった場合でも容易に権利を譲渡することができる。

決済、送金手数料の低減
 
24時間365日送金・決済が可能になるだけでなく、手数料が低減することにより企業の収益の向上や消費者の生活コスト低減につながり、経済の活性化につながる。例えば、小売店はキャッシュレス決済であっても手数料をほとんど負担することなく、即座に売上金をデジタルウォレットで受け取ることができる。

公的機関の透明性向上
 
選挙や税金の使途など、公的機関の透明性が向上し、信頼できる政治システムへの一助となる。例えば選挙において、投票者の匿名性を確保しながら、投票結果の正当性を証明できる。

資格や実績の証明
 
企業や公的機関が証明する公的な資格だけでなく、小さな団体や個人が発行する証明書など、様々な証明がトークン化され、デジタル上で簡単に検証できるようになる。例えば、学割のための学生証の提示がオンラインで簡単にできる。

新しい非中央集権的組織の誕生
 スマートコントラクトによる契約執行の自動化と適切なインセンティブ設計によって、非中央集権的に機能する組織が誕生し、公的機関や株式会社などの既存の組織では上手く処理し難かったタスクを効率的に実行していく。例えば、予算や人的リソースの問題で維持できなくなった行政サービスを、非中央集権的組織が代替する。

活用事例

会員権、宿泊権のトークン化

 日本国内のスタートアップであるNOT A HOTEL社が販売するメンバーシップを保有すると、毎年決められた日に、ランダムに選ばれたNOT A HOTEL社が運営する宿泊施設に泊まることができます。
 メンバーシップと宿泊できる権利は、どちらもNFTとしてブロックチェーン上に発行されており、プレゼントとして贈与したり、都合が悪い場合や必要無くなってしまった場合にはNFTマーケットプレイスを使用して自由に譲渡したりすることが可能になっています。

国際送金、少額送金

 Strike社では、ビットコインのレイヤー2技術である「Lightning Network」を活用したボーダレスな送金サービスを提供しており、例えばアメリカからメキシコに送金する場合、低手数料で少額の米ドルを送金し、メキシコペソで受け取ることが可能です。出稼ぎ労働者が母国の家族に仕送りをする際に、海外送金手数料が高額になってしまう問題を解決できるソリューションになっています。

TOPPANデジタルの取り組み

 TOPPANグループは様々な事業の一つとして、証券印刷などの偽造防止技術を活用することで、リアルなモノに価値やアイデンティティを与えてきました。現代では様々な情報がデジタル化され、複製されることで、インターネットを通じて瞬時にアクセスできるようになったものの、デジタル化された「価値」の自由な流通は実現していません。TOPPANデジタルでは、「価値のインターネット」の実現を目指して、ブロックチェーン技術を活用した研究開発を推進していきます。

情報と価値を扱う技術のイメージ

 またWeb3という文脈においては、企業ではなくユーザー自身がデータを管理するため、正当な本人であることを認証するための暗号技術に基づく秘密鍵の管理方法が、重要になると考えられています。TOPPANグループはセキュリティ関連事業を通して培ってきた知見を活かし、ユーザー自身が安心してデータや資産を管理するための研究開発を推進していきます。

TOPPANデジタル有識者コメント

由良彰之
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
企画開発本部 本部長

 TOPPANデジタルでは、ブロックチェーン技術を「価値のインターネット」を実現するための基盤技術だと捉え、「情報」と同じように世界中でシームレスに「価値」が交換できる社会を目指して、中長期的な視点においても研究開発に取り組んでいます。
 例えば現在の情報化社会では、ユーザーのデータは中央集権的なプラットフォーマーによって管理、利用されていることにより、様々な問題が指摘されています。それらの問題を解決する上でもWeb3の概念では、ユーザー自身で自分のデータを所有し管理することが重要視されています。
 しかしながら、安全にデータを管理するために使われるブロックチェーン技術では、ユーザーを証明するための暗号技術に基づく秘密データなどもユーザー自身で管理しなければならず、これまで意識すらして来なかった煩雑な作業が発生し、データの流出や紛失で数多くのトラブルが発生しています。
 我々は、これまで培ってきたセキュリティへの知見をもとに、人々が便利に安心して自身のデータを管理、利活用できる社会を目指して研究開発を推進します。


■編集者

瀨川 暉
TOPPANデジタル株式会社
技術戦略センター
企画開発本部