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教育DXにおけるLLMの活用

 昨今、AI技術の飛躍的な発展が注目されており、特に大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)の活用は様々なビジネス領域へ拡大しています。本記事では、LLMを活用した教育DXの取り組みをご紹介します。


概要

  我々は、教育の未来を切り開くための新たなステップとして、 教育に関連する業務のデジタル化を推進するとともに、東京書籍との連携によるLLMを活用した教育DXに取り組んでいます。特に小・中学生の試験・ドリル問題の作成とCBT試験[※1](Computer Based Testing)における短答・記述問題を対象とした自動採点の検証に重点を置き、課題となっている教育現場の業務効率化を目指します。

[※1]CBT:コンピューターを使用した試験方式

教育DXの取り組み

研究・活動内容

試験・ドリル問題の生成

 問題作成は、出題範囲が適切か、出題の狙いに適合しているか、問題の種類(選択・短答・記述)の割合は適切か、表記が対象者(学年等)に適切かなど、さまざまな観点が必要なため、非常に負荷が高い作業です。本取り組みでは、東京書籍の教科書や問題集などの教育データと検索拡張生成[※2](RAG:Retrieval Augmented Generation)を活用した問題生成の仕組みを構築し、作問者の指示に対して、問題作成における観点に沿った問題を生成することで、問題作成作業における負荷削減を図ります。

 具体的な取り組みとして、問題作成における上記観点を踏まえ、①出力される出題形式や文章形式の統一を目的としたプロンプト検証、②指示に適した出題範囲(単元等)の問題生成には、構造化されたデータから関連文章のみを取得することが重要なことから、教科書の形式に合わせて構造化データの分割検証を実施しました。

 これらの検証により、RAGの仕組みを構築するだけでは、作問者が意図する問題生成が困難でしたが、検証後は、検証対象の問題において問題作成の観点である問題形式の指定や出題範囲に沿った問題の生成に加え、教科書から抽出したデータをもとに問題が生成されることにより、教科書に記載されている漢字や学年に合わせた文章表現に改善されたことを確認しました。

[※2]検索拡張検索:LLMによるテキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させる技術

RAG技術を活用した問題生成

短答・記述問題の自動採点

 学習指導要領の改訂により、思考力・判断力・表現力の育成という観点から、短答・記述問題の出題が増加傾向となっています。一方、短答・記述問題は様々な答案パターンが存在するため、採点に大きな労力がかかります。本取り組みでは、LLMを活用した短答・記述問題の採点AIモデルの構築・精度検証により、採点業務の省力化を図ります。
 具体的には、LLMにLoRA[※3](Low-Rank Adaptation)を活用したファインチューニング手法を用いてCBT試験の採点結果データを学習することで、各短答・記述問題に特化したモデルを構築しました。現時点では少量データの学習においても国語・理科・社会の短答・記述問題で、採点精度が90%以上を達成しています。

[※3]LoRA:ベースのモデルが持っている言語理解能力を維持した状態で各タスクに合わせて効率的にカスタマイズ可能な技術

短答・記述問題の自動採点

今後の課題

試験・ドリル問題の問題生成

 今後は、過去問題の正解率をもとにした難易度指定や過去問題と類似した問題生成技術の機能拡張に取り組みます。また、マルチモーダルAIを活用した図・表のテキスト抽出・参照による問題生成や、問題で使用する図・表を生成する技術の可能性を検討していきます。

短答・記述問題の自動採点

 今後は更なる採点精度の向上に向け、学習データの積み増しや日々進化するLLMへ変更することで、採点AIモデルの予測精度の向上に取り組みます。また、教育現場でのAI活用において、公平性や透明性の確保が特に重要になるため、AIの予測結果に至るプロセスを人間が説明可能・解釈可能とするXAI(Explainable AI)という技術を活用し、教師や生徒に対する採点根拠の説明性を明示する手法の確立を目指します。

 現在は、問題生成と自動採点を重点的に取り組んでいますが、今後は採点結果を分析し、その結果に基づく個別最適なアドバイスの実施や、評価結果を踏まえた問題生成など、さらにAIを活用した教育DXの可能性を検討していきます。

将来像

教師の働き方の変化

 日本では、教師の長時間勤務や教師不足などが問題になっています。本取り組みにより、教師は問題作成や採点といった時間のかかる作業から解放され、児童生徒一人ひとりの興味や必要に応じた教育に時間を費やすことができるようになります。
 また、効率的な勤務体系と生徒への個別対応能力の向上により、教師という職業の魅力が高まることが期待されます。

教育課程の変化への対応

 教育トレンドの変化や学習指導要領の改訂など、教育課程は時代と共に変化しており、教育の在り方が常に見直されています。
 いま、子供たちは言葉の読解力、表現力など、自らが記述するような問題や課題が多く出されています。そのため、LLMは、そのような変化に対し、教材や問題集などを最新の教育課程に合わせた作成・更新の一助となることが期待されます。